登入ルナフレアに着替えを手伝ってもらい、カリナの準備は完了した。自室で彼女の準備を待つことにしたのだが、「すぐに行くので城の入口で待っていて下さい」と言うので、カリナは独り城の入口を出て待っていた。
晴れ晴れとした良い天気である。見張りの衛兵に挨拶をし、軽く会話を交わす。
「カリナ様、今日はおめかしをされてどこかへお出かけですか?」
「ああ、ちょっとギルドまでね。それと城下でショッピングとかもしてみたいと思って。どこか美味しい店とかあったら教えてくれないか?」
「それでしたら、商業区にあるアンティークというお店がお洒落で人気がありますよ。普通の食事にデザートやお酒まで揃っています。ってカリナ様にはお酒はまだ早いか」
そう言って若い衛兵は笑った。確かにこの見た目ではアルコールを飲むのは止められそうである。中身は成人男性なのだが、アバターの見た目に周りの反応が引っ張られるのは仕方がないことだろう。
「だとしたら、私は一生お酒が飲めないのでは……?」
PCは肉体の変化がない。カリナはずっと今の小柄な少女の見た目のままなのである。これにはさすがに肩を落とした。
元々リアルではスポーツ好きな健康な男である。酒も煙草もやらない。そう考えるとそこまで深刻な問題ではないのかもしれないが、大人数で宴会などがないとも言えない。そのときに独りだけちびちびとソフトドリンクを飲むのは何だかもの悲しいとは思った。「まあまあ、カリナ様もその内成長しますから。そのときにお酒を嗜んでみてはいかがですか?」
成長しないんだよなぁ……。カリナはそう思いながら衛兵の言葉に相槌を打っておいた。
「今日はお一人ですか?」
「いや、従者のルナフレアと約束している。今は彼女の準備を待っているんだよ」
「ああ、あの綺麗な妖精族の。いいですよね、滅多に外では見ないけど我々の間では人気ですよ。あの神秘的な雰囲気がいいですよねー」
自分の知らないところでルナフレアが人気者になっている。まあ買い出しなどがあれば彼女も城下に出ることもあるし、城内を歩くこともあるだろう。カリナは自分の侍女が密かな人気があることに嬉しくなったが、変な虫がつかないようにも注意しなければならない、と勝手に思うのであった。
衛兵の青年と話していると、内側から城門が開いて、中からルナフレアが現れた。そしてカリナはその姿に目を奪われた。
白い清楚なロングのワンピースに薄い水色のカーディガンを羽織り、黒に白いフリルを施した日傘を差した彼女は誰もが足を止めて二度見してしまうような美しさと清潔さを醸し出していた。
「すみません、カリナ様。お待たせしてしまいましたか? いざ着替えるとなるとなかなか決まらなくて……」
カリナも衛兵の青年もルナフレアの姿に見入っていた。
「ああ、いや、そんなことないぞ。丁度そこの衛兵と世間話をしていたし、いいお店も紹介してもらったしね」
「そうですか? あの、それで、どうですか? 私の格好、変じゃないでしょうか?」
「ああ、いや、凄く似合って……」
「とても似合ってます! いやーこんな美人の私服を見れて満足です!」
カリナが感想を言おうとしていたのを衛兵の言葉が遮った。まあ、興奮する気持ちはわからなくはない。カリナも内心その美しさに言葉を失ったからである。
「あ、あはは、ありがとうございます。でも私はカリナ様の意見を聞きたいのですが」
その言葉に青年はがっくりとうなだれた。これは厳しい。彼女には全く眼中になかったのであろう。だが、この態度なら悪い虫などつかないだろうとカリナは安堵した。
「で、どうですか? カリナ様」
「うん、凄く似合ってるよ。白いワンピースが清楚さを表現してるし、水色の薄手のカーディガンが白によく映えている。日傘もお洒落で服装にマッチしてるし、文句なしに満点だな」
正直女性の服装にそこまで詳しい訳ではないが、カリナの口からは彼女を褒める言葉がスラスラと出て来た。お世辞なしの素直な感想だった。
「まあ、それは嬉しいです。では参りましょうか。先ずはギルドに用事があったのですよね?」
「ああ、じゃあ行こうか」
ルナフレアは左手に日傘を持ち、空いた右手でカリナの左手を取った。
「ああ、何て羨ましい……。では気を付けて行ってらっしゃいませ」
「ありがとう、教えてくれた店にも行ってみるよ」
衛兵の羨望の眼差しを受けながら二人は城下へと歩み出した。
◆◆◆ 城を出てから東にある商業区に向かう。綺麗に舗装された道なりに様々な店舗が立ち並び、華やかな印象を受ける。冒険者用の武器防具屋、レストランにファッションショップや小物店など、多種多様なお店が存在している。且つてはここまで賑わってはいなかった。この100年の間にNPCが普通に生活を営む現実の街のようになっていたのである。
「これほど賑わっているとはなあ。カシューは頑張っているんだな」
「ここには私もよく食材などを買いに来たりもしますよ。いつも賑わっていて活気があって好きです。あ、そろそろギルドに着きますよ」
大通りを歩いていると一際目立つ大きな建物が目に入った。入り口には「ギルド総合組合」と書いてある。以前は冒険者ギルドだったのだが、どのように変わったのだろうかとカリナは頭を捻った。
「以前は冒険者、製造、商人などのギルドが別々になっていたんですが、各々が相互に関係する依頼があるので、ややこしいということで一つの建物に全ての機能を統合したということらしいですよ」
ルナフレアの説明を聞いて、カリナはなるほどと思った。各種ギルドの依頼が一箇所に集まれば、逐一別のギルドへ足を運ぶ必要もなくなる。
「そうか、それで昔のギルドカードが今は使えなくなったと。だったら仕方ないのか」
「そういうことになるんでしょうね。だから今のカードは全ての機能を統合したものになっているはずですよ」
「なるほど、まあとりあえず入ってみようか」
ギルドの両開きの大きな扉を開けて中に入ると、周囲の目線が一瞬にして二人にくぎ付けになった。小柄だがファンシーな衣装を着たとんでもない美人と、清楚な格好をした淑女を体現したかのような美女である。「何だ何だ?」「あの美人なお嬢さん方は誰だ?」と、そこかしこで噂話がされているのが聞えて来る。どうにも居心地が悪くて、カリナはさっさと冒険者ギルドの受付を探すことにした。
「ギルドへようこそ。初めての方ですか? どちらの組合に御用ですか?」
ミニスカートのメイド服に似た接客服を着たショートカットの女性が話しかけて来てくれた。
「ああ、冒険者のギルドに用事があってね。それにしてもここは広いな……」
「そうですねー、入り口から左から商業ギルド、製造者ギルド、採集関係、その隣はレストランで、一番右奥が冒険者ギルドになっていますよ。それにしてもこんな可愛いお客さんが冒険者なんて珍しいですねー」
「説明ありがとう。じゃあ右奥のカウンターでいいんだな。それにしても珍しいものなのか?」
「そりゃあ、冒険者なんて荒くれ者が大半ですからねー。こんな可愛い女の子が冒険者なんて珍しいに決まっていますよー」
笑いながら従業員が話す。まさかよくある変な冒険者に絡まれたりしないだろうな、とカリナは少し気を引き締めた。
「カリナ様は可愛らしいですからね。そんな方が冒険者なんていうのは確かに珍しいかもですね。ともあれ、陛下からの用事もありますからさっさと向かいましょう」
「ああ、そうだな」
「じゃあご案内しますね」
従業員に案内されて右奥のカウンターへと向かう。その途中でギルド中のテーブルに腰掛けていた冒険者達がカリナ達をジロジロと見た。絡まれるようなことはなく、寧ろ彼女達の美しさに目を奪われていたという感じであった。
「はい、ここがカウンターです。ではまた。何か注文がありましたらいつでもお呼び下さいねー」
従業員は明るく言うとホールの方へと戻って行った。周囲を見ると、訪問者達は何かしら飲み食いしている。色々な機能が詰まっていて便利だなとカリナは思った。
受付に立つと中から受付嬢の制服を着た女性がカウンター越しにやって来た。「こちらは冒険者ギルドの受付です。私は受付嬢のアナマリアです。以後お見知りおきをお願いしますね。今日はどういったご用件でしょうか?」
快活な印象の女性が出迎えてくれた。先ずはこれまでのギルドカードを見せてみる。
「新しく登録したいんだけど、Cランク以上ないと他国には仕事で入れないと聞いたからね。それとこのカードはもう効力はないってのは本当なのか?」
古いギルドカードを受付嬢に渡す。Aランクの記載があるそれをじっと見るアナマリナ。
「これはかなり古いものですね。過去にギルドが個別に設置されていた頃のものですよ。悪魔襲来があって多くの犠牲が出たためにギルドの構成を見直して一から作り直したんです。もうこれは効力がありませんね……」
カシューから聞いてはいたが、苦労してAランクまであげた証拠が紙くずになってしまったショックは大きい。
「では新規での登録になりますが、それだとFランクからですね」
やはりそうなるか。だがそれは想定内である。そこでカシューから渡された書簡を見せる。
「これの中身を見て欲しいんだけど」
「はい、え?! この印はカシュー国王陛下からの書簡?! ちょっ、少々お待ちください!」
書簡を手にしたアナマリアはバタバタと奥に走って行ってしまった。
暫く待つと、奥からアナマリアが戻って来た。
「特殊な事例なので、ギルマスが面会されるそうです。なので此方の扉から奥の部屋にどうぞ」
並んだカウンターの真ん中にある扉をアナマリアが開けてくれて、二人はそこからギルドの奥へと入って行った。
そこには待合室の様な造りの豪華な部屋があり、そこのソファーに腰掛けていた壮年の男性がカリナ達を出迎えてくれた。案内してくれたアナマリアも同席することになった。
「これはこれはよく来てくれましたな。カーズ王国騎士団長の妹君カリナ様。私はここの冒険者組合のギルドマスターを務めているステファンと申します。あなたのことは陛下からの書簡から知りました。他国への任務に赴くために特別にCランクを与えて欲しいとのことでした。なるほど、陛下からのお言葉であれば断ることはできませんね」
さすがカシューである。根回しはバッチリであるように思われた。カリナとルナフレアは嬉しそうな顔をする。
「しかしですな、いくら陛下の頼みとは言えこれまで任務を苦労してこなして来た他の冒険者達には申し訳が立たなくなるのです。カリナ様は召喚士と魔法剣士であると知りました。ですが召喚士は今や目にするのも珍しい職業です。その実力がどのようなものなのかを見極めなくてはなりません」
召喚士が絶滅危惧種で珍しいというのは聞かされている。だが力を示せとはどういうことであろうか。
「カリナ様は偉大な召喚士です。ギルドマスター、あなたのその発言は陛下への反逆とも捉えかねないものですよ!」
ルナフレアが珍しく感情的になった。使える主君の力を疑われて頭に来たのだろう。だが、カリナはこのステファンの言うことも間違っていないと感じた。国王の意見一つでランクを好きにいじられてはギルド側も困惑するだろう。
「これは証拠にならないか?」
カリナは過去のAランクのカードを見せた。それを手に取り、ステファンはふむふむと何か考えているようだった。
「過去のカードとはいえ、元々Aランクの実力はあると……。それでは此方が用意した冒険者と模擬戦を行ってもらえますか? 相手はBランクギルドですが、元Aランクならば楽勝でしょう。どうされますか?」
「あんたの言い分も分かる。それに特別扱いは周りの連中も納得はしないだろうしな。私もそれだとあまり気分が良くない。だったらちゃんと実力で証明するよ」
カリナの返事にステファンはニヤリと笑った。ルナフレアは融通が利かないギルマスにイライラしている様だったが、カリナが実力を示せば何の問題もないことがわかり、安心したようだった。自分が仕えてきた人物は、その辺の野良冒険者などに負けるはずがないからである。
「カリナ様の慈悲深さに免じて反逆罪は通達しないでおきましょう。ですが、後悔しても知りませんよ。私の主は凄まじい強さですからね」
「ああ、誰でもいい。さっさと始めよう。この後は彼女と用事が詰まっているんだ」
そう言うと左拳を右手の掌に打ち付けた。
「わかりました。では模擬戦をやりましょう。アナマリア、グレイトドラゴンズを呼びなさい」
ああ、冒険者グループのギルド名ってことかと理解したカリナは、同時になんてダサい名前なんだと思った。
模擬戦が幕を開ける。
ザルバディオ・カルマの消滅により、再び静寂が戻ったコロシアム。だが、それは恐怖による沈黙ではない。偉大なる勝利と、平和の到来を噛みしめる安堵の静寂だった。 舞台上の瓦礫が片付けられ、表彰式の準備が整う中、実況席から一人の女性が軽やかな足取りでレオン王の下へと駆け寄った。 実況のマグダレナだ。遠目には分からなかったが、間近で見る彼女の容姿は、自ら看板娘を名乗るに相応しい華やかさを持っていた。 艶やかなエメラルドグリーンのロングヘアが背中で揺れ、その肢体はイベントを意識した大胆な衣装に包まれている。身体のラインを強調する光沢のある黒いバニースーツに、引き締まった脚線美を際立たせる網タイツ、そして黒いハイヒール。 彼女は愛嬌たっぷりの笑顔で、魔法で増幅されたマイクを差し出した。「陛下! 会場のみんなに声が届くよう、これを使って下さい!」 レオン王は目を丸くし、豪快に笑った。「おお、これは気が利かなかったな。感謝するぞ、マグダレナ」 王はマイクを受け取ると、威厳に満ちた声を会場中に響かせた。「これより! アレキサンド剣術大会、表彰式を開始する!!」 王の宣言と共に、観客席からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。舞台中央。真紅の戦装束、バトルドレスに身を包んだアリアと、泥だらけになりながらも凛と立つカリナは王の前に進み出ると、恭しく片膝をつき、その言葉を待つ。 レオン王はまず、アリアへと視線を向けた。「先ずは女神アリア殿。その凄まじい強さと、最後に見せた悪魔退治……感謝してもしきれぬ働きであった。この国を、いや、世界を救ったと言っても過言ではない」 王は近衛兵が捧げ持っていた、豪奢な装飾が施された一振りの剣を手に取る。「優勝の約束として、かつてこの国の英雄が使っていた『聖剣ジュノワーズ』を授与する。受け取られよ」 アリアは立ち上がり、その美しい剣を受け取った。だが、その表情に高ぶりはなく、あくまで涼しげだ。「私は女神として、当然のことをしただけですよ。それに、この大会に出たのも、悪に立ち向かえる力のある人間がどの程度なのかを見定めるためでしたから」 悪びれもせず言い放つアリアに、レオン王は一瞬言葉に詰まり、苦笑する。「そ、そうか……。だが、この国を救ってくれたことは紛れもない事実。深く感謝する」 王が深々と頭を下げると、アリアはに
熱狂と興奮がピークに達した決勝戦。だが、その余韻を無惨に切り裂くように、禍々しい闇が舞台を侵食した。『な……何が起こっているのでしょうか!? 決勝戦が終わった舞台に、突如として黒い影が……!』 マグダレナの悲鳴のような実況が響く。観客達もパニックに陥り、悲鳴を上げて逃げ惑う者、恐怖で腰を抜かし立ち尽くす者で会場は瞬く間に混沌と化した。「悪魔だ……! 本物の悪魔が出たぞ!」「逃げろ! 魂を喰われるぞ!」 その混乱の中、解説席のレオン王が立ち上がり、声を張り上げた。『うろたえるな! 皆の者、落ち着け! まさか悪魔が直接乗り込んで来るとは……! だが、近衛騎士団、すぐに観客の避難誘導を! 決してパニックになるな!』 王の必死の呼びかけも、圧倒的な恐怖の前では力を持たない。カリナ達の貴賓席も騒然となっていた。「あれが……、災禍六公……?! エデンを襲撃した悪魔の一味よ!」 カグラが目を見開き、震える声で叫ぶ。彼女の脳裏には、カシューから聞いた情報が警鐘のごとく響いていた。エデンを襲撃した悪魔の一味。エクリアが禁呪レベルの破壊魔法で消滅させたと聞いた一体。それと同じレベルの存在が現れたのだ。 以前ガリフロンド公国で死闘を繰り広げた災禍伯メリグッシュ・ロバス。目の前の悪魔が放つプレッシャーは、その怪物に勝るとも劣らない。そんな絶望的な存在が、なぜこんな場所に現れたのか。カグラは戦慄を抑えきれなかった。「とんでもない力を感じるぞ……あの悪魔は……」 カーセルが顔を青ざめさせ、剣の柄に手をかけるが、その手は震えている。カインも歯を食いしばった。「おいおい、冗談だろ……? あんなのが幹部クラスだってのかよ……」「空気が……重い。息をするだけで肺が焼けるみたいだわ」 ユナが胸元を押さえて苦しげに呻く。テレサも怯えたように身をすくませた。「あんな禍々しい気配……初めてです……」 エリック達の席でも、同様の動揺が走っていた。「まさか、こんなところにまで単身で乗り込んでくるとはな……! 正気じゃねえ!」 エリックが脂汗を流す。隣のディードが耳を押さえてうずくまる。「嫌な音……。世界が悲鳴を上げている音がする……」 「団長……あいつ、私達とは次元が違い過ぎます……!」 テレジアも絶望的な表情で首を振った。 舞台中央。闇の中から
熱狂と興奮が飽和するコロシアム。 準決勝第二試合の衝撃的な決着から一息つき、休憩終了の鐘が高らかに鳴り響いた。 魔法マイクを握りしめたマグダレナが、震える声で告げる。『さあ、皆様! いよいよ、この大会のクライマックス! 決勝戦の幕が開きます! これまで無傷で勝ち上がって来た両者が、ついに激突します! 一体どんな戦いになるのか、私の実況では言葉が追いつかないかもしれません!』 解説席のレオン王も、深く頷きながら前を見据えた。『うむ。英雄と謎の女神……今ここアレキサンドで今、最も注目される二人の激突だ。決勝に相応しい、最高のカードと言えるだろう』 カリナ達がいる貴賓席。カリナが静かに立ち上がった。その背中を、カグラがぎゅっと抱きしめる。「カリナちゃん……気を付けてね。でも、あの余裕ぶっこいた女神の顔色、変えてきてやりなさいよ!」 「ああ。ここまで来たら、全力でぶつかるだけだ。ありがとう、カグラ」 カリナはカグラの手を握り返し、仲間達の顔を見渡した。 エリアが拳を突き上げる。「行けーっ! カリナちゃん! 私たちの分まで!」「おう! 頼んだぜ!」「カリナ嬢ちゃん、武運を」「カリナちゃん、頑張って下さい!」 ロック、アベル、セレナの声援。更にルミナスアークナイツの面々も声を張り上げる。「カリナちゃん! 僕達も全力で応援するからね!」「負けんじゃねーぞ! カリナちゃん!」「カリナちゃん、ファイト!」「頑張って下さい、カリナさん!」 カーセル、カイン、ユナ、テレサ。そしてケット・シー隊員も「隊長、応援するにゃー!」と叫んでいる。カリナは彼らに力強く手を振って応え、舞台へ足を進めた。 一方、アリアがいる貴賓席。アリアは優雅に髪をかき上げた。「ようやく決勝ですか。さて、カリナさんがどうくるのか、楽しみですねぇ」 余裕の笑みを浮かべ、彼女もまた舞台へと向かう。その様子を、エリック達が見送っていた。「……いよいよだな」「ええ。カリナさんの剣が、あの方に届くのか……見ものです」「人間離れした戦いになるでしょうね」 エリック、テレジア、ディード。彼らもまた、固唾を飲んでこの一戦を見守ろうとしていた。 二人の戦士が、まばゆい陽光の下へと現れる。『まずは、エデンが誇る特記戦力にして、ザラーの街を救った可憐な戦乙女! 召喚魔法剣士、カリナァァァーッ!
熱い興奮が渦巻くコロシアム。 準決勝第一試合の余韻が残る中、実況のマグダレナが魔法マイクを握り直し、高らかに声を張り上げた。『さあ、息つく暇もありません! 続いて行われるのは準決勝、第二試合! 決勝でカリナ選手と戦うのは、果たしてどちらの選手になるのでしょうか!』 エリック達が陣取る貴賓席。出番を控えたテレジアが、静かに愛剣の点検を終えて立ち上がった。その背中に、先ほど敗れたばかりの団長、エリックが声をかける。「テレジア、行けるか?」 「ええ、団長。……敵討ち、とはいかないかもしれませんが」 「バカが、俺のことはいい。それより……あいつは得体が知れない。気を付けろよ」 エリックの表情は真剣そのものだった。長年の勘が、対戦相手であるアリアの異常性を警告しているのだ。「ええ、分かっています。これまでも全て一撃、それも目にも止まらぬ速さで試合を決めて来た異常な存在……。心して、行ってきます」 テレジアは凛とした表情で頷き、扉を開けて舞台へと向かった。 一方、アリアが陣取る貴賓席。アリアは軽く屈伸をし、伸びをしていた。「んーっ……。さてと。今回は純粋に剣技のみでやりましょうかね」 彼女は誰に聞かせるでもなく独りごち、楽しそうに笑みを浮かべて舞台へと歩みを進める。『まずは、予選からここまで、全ての試合を一撃のもとに決着させてきた謎の美女! 自ら女神を名乗るアリア! その真紅の装備に、今度こそダメージが入ることはあるのでしょうかーっ!?』 観客の視線が一斉に注がれる中、アリアが優雅に手を振って登場する。その余裕綽々とした態度は、これから死闘に赴く戦士のそれではない。まるで庭の散歩にでも来たかのようだ。『対するは、先程のエリック選手と同じ、武大国アーシェラのAランクギルド『ドラゴンベイン・オーダー』所属! 氷の魔法剣士、テレジアァァッ!!』 対面から、一陣の涼やかな風と共にテレジアが現れる。 淡い水色のセミロングヘアが風に揺れ、氷のような青銀のライトアーマーが陽光を反射して輝く。青い膝丈のスカートと白いブーツが、彼女の可憐さと剣士としての凛々しさを引き立てていた。 その長い耳と整った顔立ちは、彼女が高貴なエルフであることを示している。腰には、細身のレイピアに近い片手剣が帯びられている。 解説席のレオン王が頷いた。『うむ。剛剣のエ
準決勝を控えた休憩時間。貴賓席は、先ほどの熱戦の余韻と、次なる戦いへの期待に満ちていた。中央のテーブルを囲むように、シルバーウイングとルミナスアークナイツの面々が集まっている。「ここからは、カリナちゃんを一生懸命応援するよ! みんな!」 敗退したばかりのエリアが、真っ先に声を上げた。その表情に暗さはなく、親友の背中を押す決意に満ちている。ロックがいつまでも食べているサンドイッチを握り拳で掲げた。「もちろんだ! がんばれよカリナちゃん! エリアの分まで頼んだぜ!」「うむ、健闘を祈る。相手は未知数の強敵だが、カリナ嬢ちゃんなら大丈夫だろう」 アベルも深く頷き、どっしりとした声でエールを送る。テレサは、どこか夢見心地な様子で頬を紅潮させていた。「はぁ……カリナちゃんの戦いに集中できるなんて……眼福です。あの流麗な魔法剣技、一瞬たりとも見逃せません」「そうだね。僕達も一生懸命応援するよ。カリナちゃんの勝利を信じてる」 カーセルが穏やかに微笑む。カインはニカっと笑い、背負った槍の柄を叩いた。「まあ、カリナちゃんが負けるところなんて想像がつかねーけどな!」「でも、油断は禁物よ。あの大剣使いも中々やり手っぽいわ」 ユナが少し真剣な顔つきで釘を刺す。テレサも頷き、言葉を継いだ。「そうですね。それでも、カリナさんが勝つところを見たいです。私達の希望ですから」「隊長が負けるわけがないのにゃ! 最強なのにゃ!」 足元でケット・シー隊員が胸を張り、ふんすと鼻を鳴らす。カリナは仲間達の温かい言葉に目を細め、力強く頷いた。「みんなありがとう。ベストを尽くすよ」 その時、カグラがそっとカリナに近づき、周囲に聞こえないよう小声で囁いた。「……相手がもし『PC』なら油断はできないわ。最初から思いっきりやってやりなさいよ、カリナちゃん」「ああ、油断はしないよ。一合打ち合えば、それだけでわかるだろうさ」 カリナは静かに闘志を研ぎ澄ませる。相手が自分と同じ領域にいる存在かもしれないという予感が、心地良い緊張感となって全身を巡っていた。 やがて、休憩終了を告げる鐘が高らかに鳴り響いた。『それでは、準決勝第一試合を開始いたします!』 マグダレナの声が会場の空気を引き締める。二人の戦士が、それぞれの貴賓席から舞台へと向かう。『まずは、エデンが誇る美少女召喚魔法剣
休憩時間。カリナ達がいる貴賓席では、和やかなティータイムが始まっていた。「次はカリナちゃんとの戦いかー。……やっとだね」 大会スタッフが用意した紅茶を一口飲み、エリアが不敵な笑みを浮かべる。その瞳は、親愛なる友に向ける優しさと、一人の剣士としての闘争心が入り混じっていた。「ああ。楽しみだな、エリア」 カリナもまた、カップを置いて微笑む。言葉数は少ないが、その瞳の奥には静かな炎が燃えている。 そんな二人を見て、カグラが胸を張った。「ふふっ、覚悟しなさいよエリアちゃん。私の妹分は強いわよー?」 「それはもちろん知ってますよ、カグラさん。ずっと間近で見て来ましたからね」 エリアはニッと白い歯を見せる。「でも、勝つ気でいきます! カリナちゃんが強いのは百も承知。だけど、私もシルバーウイングの副団長として、簡単に負けるわけにはいかないのよ!」 「おう、威勢がいいこった! まあ、一太刀入れられたら十分だと思ってるけどな!」 ロックがサンドイッチを頬張りながら茶化すと、アベルも深く頷いた。「ああ。あのカリナ嬢ちゃんだ。勝つのは至難の業だろう」 「エリア、貴方の剣技の冴えならいい勝負になると思いますが、カリナちゃんのあの冷徹なまでの先読み……あれを崩せるかどうかですね」 セレナが頬を紅潮させながら、どこか楽しげに分析する。「もうっ! アンタ達、同じギルドメンバーなのに酷いわね!」 エリアが頬を膨らませると、全員がどっと笑った。その温かい笑い声に、ルミナスアークナイツの面々も加わる。「はは……僕もカリナちゃんには手も足も出なかったけど、エリアさんには期待してるよ」 カーセルが苦笑交じりにエールを送る。「そうよエリアちゃん! カリナちゃんは強過ぎるからね。一太刀入れれば実質勝ちみたいなものよ!」 「ああ。あの反応速度と技のキレは異常だ。エリア、気合入れてけよ!」 ユナとカインも、カリナの強さを認めた上でエリアを鼓舞する。テレサは穏やかに微笑み、二人を見比べた。「でも、勝負は時の運もありますから。どちらが勝つにせよ、素晴らしい試合を期待してます」 「ありがとう、テレサの言う通りだな」 カリナとエリアは顔を見合わせ、頷き合った。 ◆◆◆ 休憩終了の鐘が鳴り響く。『さあ皆様、長らくお待たせいたしました! これより三回戦、準々決勝の第一
ヒースの部屋を出てロビーに戻ると、そこは殺気立った空気に包まれていた。 負傷している者、装備を点検して飛び出していく者。怒号と悲鳴が飛び交う中、数人の冒険者が地図を囲んで深刻な顔で話し合っているのが耳に入った。「南西の防衛線が危ない! 急造の砦を築いて凌いでいるが、魔物の数が多すぎる!」 「正規軍の騎士団も限界だ。このままじゃザラーまで雪崩れ込んでくるぞ!」 彼らの会話を聞いたカリナは、迷わず彼らの元へと歩み寄った。「その南西の砦、私が加勢に行こう」 凛とした声に、冒険者達が振り返る。だが、彼らの目に映ったのは、フリルたっぷりの緑のドレスコートを着た、深窓の令嬢のような美少女と、二
精霊の塔・最上階。 石床は砕け、空気は灼け、カリナの呼吸は荒くなっていた。剣を振るうたび、腕に重くのしかかる衝撃。魔法剣士として精霊と呼吸を合わせることができない純粋な剣技だけでは、それを振るう悪魔の膂力の前では分が悪すぎる。「くっ、はぁっ……!」 アグノス・レギウスの大剣が、横薙ぎに唸る。受け止めきれず、カリナは後退する。衝撃を殺しきれず、床に深い溝が刻まれる。一撃一撃が、確実にカリナの命を削りに来ていた。「終わりだ、召喚士カリナ。その剣では、ここまでだ」 アグノスがトドメの構えに入る。もはや回避も防御も間に合わない距離。絶望的な質量が頭上から迫る。 その瞬間―― カラ
精霊王の姿が消え、最上階に静寂が戻った。 だが、今のカリナが纏う空気は、塔に来る前のそれとは明らかに異なっていた。肌は内側から発光するように透明感を増し、その身に纏う魔力はどこまでも清浄で、かつ濃密だ。「……すごいにゃ、隊長」 物陰から恐る恐る出てきた隊員が、カリナを見上げて目を丸くした。「なんかこう、ピカピカしてるにゃ。神様みたいにゃ。近くにいるだけで身体の奥から元気が湧いてくるにゃ!」「ふふ、そうか? 自分ではあまり分からないが……確かに、身体は羽が生えたように軽いな」 カリナは自身の掌を見つめ、握りしめた。 精霊達の声が、五感を通してダイレクトに響いてくる。風の
世界樹の森を後にしたカリナは、ペガサスで休憩をはさみながら北上を続けた。 日が傾き、空が茜色から群青色へと変わる頃、眼下に霧に包まれた幻想的な街並みが見えてきた。目的の街、リシオノールだ。 街から少し離れた街道沿いにペガサスを降ろし、労いの言葉と共に送還する。そこからは隊員を連れて徒歩で南門へと向かった。 リシオノールは「霧の街」の異名を持つ。五大国の一つである陰陽国ヨルシカの和風の文化圏に近い影響を受けており、夕刻になると立ち込める白い霧の中に、瓦屋根や木造の格子戸といった和の風情を感じさせる建物が浮かび上がる。 石畳の道もしっとりと濡れ、軒先に吊るされた提灯の淡い光が、幻